アラームの詩 天貫勇

アラームを止めるのは、いつもの朝6:30―もうすでに6:31がiPhoneの画面にあって
でも今日のこの感じだったらあと少しだけ
低反発な男の子を抱きしめるのが私の部分的な(人差し指の指紋ほどの)
昨日からの眠りと今日を始まりに横たわるタイムマシーンはベッドの平面に落とし込んで
 *
ひとつ、ふたつ、みっつと
真夜中だった台所には活発だった夜が少し、残っているのは
「犬小屋とその屋根の上に仰向けに寝そべっているビーグル犬」型のクッキー
たくさんあったけど、もうたったそれだけ。おいしいです。焼き上がりも完璧。
でもどうしてだか、チョコチップを生地にうっかり練り込み忘れた。から
不機嫌な女の子
開け放された扉の蝶番に引っかかっているのか座るようにして
睨まれる
眉間にしわが寄りすぎて、繋がった眉毛は1匹の大きな毛虫に似ている
それから女の子は土足のまま私の肩に股がって
粉を吹いた素っ気無いチョコチップを私の脳ミソにこねりこねりこねり
入念に。システムのバグを探すように。
平に伸ばされたら
ビーグル犬が吠える声に型抜かれる
 *
再び鳴り出すアラームに、そして一旦はまた止めたんだけど
スヌーズの止め方がわからなくって
けど止まったならいいかと、ピーナッツバタークリームのビンに手をかける
古いのは使い切った。これは新品。
まだまだここだけは譲れない
 *
チョコチップは昨日の温度でとろけてしまい
指先ですくって舐める
なにもかも忘れてしまう
 *
アラームは1日の始まりをどうしても定義し
そんなにも私を起こして、次の眠りを私に想定させることで完全に任務を終える
ピーナッツバタークリームのビンとフタを力一杯それぞれにひねって
ピーナッツバタークリームを燃料タンクに満タンにして
ピーナッツバタークリームはタイムマシーンの最適な燃料になる
操縦できるかどうかはわからないのだけれども
小鳥が飛んだ黄色い跡に今日。


アラームの詩  天貫 勇